- 投稿日:2025/05/19
- 更新日:2025/10/04

※ この記事は「愛するための4つの力~他者貢献による感謝と勇気の循環~」のつづきです。未読の方は、先にこちらをお読みください。その方が理解が深まります。
https://library.libecity.com/articles/01JVKV09V87XS96BFT5TYPBTA4
他者を受け入れる
心をクリーンに保つでは、心の動き、感情面にフォーカスしているが、ここでは思考にフォーカスして、判断しない考え方や思考法について説明していく。②他者を受け入れる力につながる内容だが、①自分を満たす力、③他者に貢献する力、④心をクリーンに保つ力にも関係する内容となっている。
判断しない思考
全ての物事は、間接要因の集合としての事象である。偶然その場に集まっただけで、もともと意味はない。しかし、人はその事象を都合よく切り取って、名前と意味づけをした世界で生きている。本来の事象だけを見ることができれば判断はなくなる。
例えば、歩いている際に人とぶつかったことを想像してほしい。相手がわざとぶつかってきたと感じたとき怒りが湧いてくるだろう。この時、まず「ぶつかった」という意味をつけている。体と体が触れただけとはならない。また、相手が意図的にぶつかったかは(相手の思考が読めれば別だが)絶対に分からないが、勝手に「わざとぶつかった」と意味をつけている。これは頭の中で考えていることであり、事実ではないため、妄想している状態となる。さらに、その妄想をキーとして、わざとぶつかることは悪だと自動的に心が反応して、怒りが湧いている。このように、人は勝手に意味と名前を付けて、苦しんでいるのである。
人はその人の価値観によって、事象の切り取り方や意味づけが全く変わってくる。人はこの価値観を通して物事を見ているため、同じ物事を見ても人によって解釈が全く異なる。同様に、それによって抱く感情の種類も大きさも全く異なるのである。そう考えると、相手に伝えること、コミュニケーションというのは本当に難しい。
判断しないということは、「事実を区切り、名前と意味をつけること」をやめて、「事実とは、偶然の重なりで発生した事象なので、そこに意味などない」と理解することである。判断しない思考ができれば、世界をあるがままに見ることができ、怒りや妄想、判断を減らすことができる。
極端な話だが、原子を見る機能だけを持った宇宙人がいたとしよう。その宇宙人が地球を見たとき、人や山、海などを区別できず、ただ原子が漂っているだけに見える。そして、そこには何の意味もない。 人の感覚として例えるなら、川の水が流れて、自然と波が発生し、泡が立ち、渦を巻いているという現象が見えるだけである。
つまり、判断することを止め、「事実を区切り、名前と意味をつけること」をやめてみると、ただ水の流れを見ているだけのような、澄んだ心の感覚になっていく。
愛するための4つの力との関係性
判断しない思考は、①自分を満たす力、②他者を受け入れる力、③他者に貢献する力にも大きく関係してくる。
例えば、自己否定している人間は、自分を満たしている状態に離れない。自分がダメな奴だと判断しなければ、自己否定は発生しないため、自分を満たす力にもこの判断しない思考は重要となる。
また、他者をそのまま受け入れる際にも、相手を尊敬し、尊重することが必要となる。この判断があり他者を否定している状態や妄想で頭がいっぱいの状態では、相手をあるがまま受け入れることは不可能である。
他者へ貢献する際、相手を知ることが重要となる。この時判断が入り相手を否定していては、相手を真に知ることはできない。そのため、この判断しない思考は非常に重要である。
価値観について
価値観とは、判断の基準であり、過去の感情の蓄積である。自分の中に判断の天秤が存在し、良いか悪いかを判断している。よいと判断されれば「快」の感情を、悪いと判断されれば「不快」の感情を発生させる。この時、快不快以外に「ある」という状態が存在し、そこには、快も不快も存在しない。非常にニュートラルな状態。感情のバイアスに振り回されずに、物事をあるがまま捉えることができる。このように、怒りや妄想がなく、判断しないようなバランスが重要である。
図:判断の天秤1
価値観は、心の癖と同意である。これまでの人生で得てきた感情の蓄積によって偏りが生じている。この癖を整えるためには、判断の天秤の反対側に重み(感情)を乗せていくことで整えていく。ネガティブな感情の反対側にポジティブな感情を乗せていくイメージ。心の癖が深ければ深いほど、より多くの感情の蓄積が必要になる。年を取るにつれて、性格を強制することが難しくなるのはこのためである。
また、生きていれば感情が発生する。その際判断の天秤を意識して、意図的にポジティブな感情を使うように日々意識することで、判断の天秤は少しずつ整っていく。逆に、怒りなどの強くてネガティブな感情を使い続けると、判断の天秤は狂い続けて、長年積み重ねると手遅れとなってしまう。
図:判断の天秤2
偉人の言葉の共通点
ここで様々な価値観について紹介する。過去の偉人の言葉で共通のことを言っている。それは「①定数をいじるな、変数をいじりなさい!」と「②ただの事象を勝手に切取って意味をつけて判断するんじゃねぇ」の2点に集約される。
◆「定数をいじるな、変数をいじりなさい!」
・7つの習慣(自己啓発):
自分が影響を与えられることと、関心があることは一致しない(関心があることの方が大きい)。影響の輪の外のとこではなく、影響の輪の内にリソースを割くことが重要という考え方。
・アドラー(アドラー心理学):
課題の分離(「これは誰の課題か?」を考える。そして、他者の課題には踏み込まない)
「これは誰の課題か?」を考えるためは、その選択によってもたらされる結末を最終的に引き受けるのは誰か?を考えれば良い。「馬を水辺に連れていくことはできるが、水を呑ませることはできない」という考え方
・二―バーの祈り(神学):神学者ラインホルド・ニーバー(1892–1971年)
“神よ、変えることのできないものを静穏に受け入れる力を与えてください。変えるべきものを変える勇気を、そして、変えられないものと変えるべきものを区別する賢さを与えてください。“
・エピクテトス(ストア派の哲学):紀元前341年頃~紀元前270年頃
“自由に至る唯一の道は「我々次第でないもの」を軽く見ることである”
※自分の裁量の範囲内にあるものだけ、自分の欲望の対象と限定するという考え方
◆「ただの事象を勝手に切取って意味をつけて判断するんじゃねぇ!」
・7つの習慣(自己啓発)
「私たちは、世界ををあるがまま見ているのではなく、私たちのあるがままの世界を見ているのであり、自分自身が条件づけされた状態で世界を見ているのである。」(7つの習慣より引用)
・釈迦(仏教哲学)
「空」(くう)は、物事や存在が実体を持たず、固定された本質がないことを指す。つまり、全てのものは変化し、相互に依存して存在しているという考え方である。個々の存在や物質には独立した実体がなく、それらは関係性や状況によって存在しているだけである。例えば、テーブルを見たとき、それは木材や金属などの材料からできており、それらの材料もまた他の要素から成り立っている。このように、全ての存在は他の要素に依存しており、独立した実体がないというのが「空」の考え方である。
「縁起」(えんき)は、全ての現象や存在が相互に依存して成り立っているという教えである。一つの事象が他の事象に依存して生じ、それらの関係が無限に続いていることを意味する。つまり、全ての存在は他の存在との関係性の中で成り立っているということである。例えば、花が咲くためには、種、土、水、日光、気温などの条件(縁)が必要である。これらの条件が揃って初めて花が咲くことができる。このように、一つの事象が生じるためには他の事象が必要であり、それらは相互に依存しているというのが「縁起」の考え方である。
・ニーチェ:
フリードリヒ・ニーチェは「神は死んだ」(Gott ist tot)という名言で知られている。ニーチェはこの言葉を使って、人々が新しい価値観や意味を見つける必要性を強調した。当時神は絶対的な価値観であった。しかし、その価値観はルサンチマンによって作られた価値観であると指摘した。
ルサンチマン(Ressentiment)とは、劣等感や嫉妬心から生じる恨みや憎しみの感情を指す。ニーチェはルサンチマンを持つ人々が、自分の弱さや失敗を他人や社会のせいにし、その結果として価値観を歪めると考えた。
例えば、成功者を悪として捉え、自分を被害者として正当化するような態度である。これらの概念をまとめると、ニーチェは伝統的な宗教や道徳が崩壊した現代社会において、ルサンチマンの影響を受けずに自らの価値観を見つけることが重要であると説いた。彼は人々が自己超越を目指し、新しい価値観を創造することを期待した。
・シェイクスピア
There is nothing either good or bad, but thinking makes it so.(物事に良いも悪いもない。考え方によって良くも悪くもなる。)
・アインシュタイン
"Common sense is the collection of prejudices acquired by age eighteen." (常識とは、18歳までに得た偏見の集積である。)
こうしてみてみると、人間の本質は2000年たっても変わらない。いつの時代も大事だと伝えている人がいることが分かる。
人は、ありもしない虚構を信じて悩む
進化論的な見解では、ホモ・サピエンスは「ありもしない虚構を信じること」で他の種族を滅ぼし、現在最も繁栄している。そもそも人は150人くらいしか仲間かどうかを判断できないそうである。つまり、集団は150人が限界。しかし、虚構を信じることができたため、集団を大きくすることができたと言われている。これにより、能力で勝る150人の集団を数の暴力で駆逐していった歴史があるそうである。
この力は、別の形でも発揮されている。ありもしない虚構、例えば「鳥のように空を飛ぶ」など。この発想がなければ、そして信じていなければ、現在飛行機は存在していない。ありもしない虚構を信じる力は、使い方次第で良くも悪くもなる。
ということは、ありもしない虚構を信じて永遠に悩むのであれば、ありもしない虚構を信じて幸せになることも可能ということではないだろうか。そのための価値観を育て上げることで実行は可能だと考える。
つまり、先に説明した判断の天秤は、怒りや妄想で簡単にバランスを崩してしまうが、妄想の力(ありもしない虚構)を利用して、自分が良いように物事を意味づけして判断(ポジティブな判断)することで、バランスを崩した判断の天秤を整えることができる。
アランの名言にも次のような言葉がある。「悲観主義は気分によるものであり、楽観主義は意志によるものである。」楽観、つまりポジティブな感情は、意識的に作り出すものである。これも、ありもしない虚構の話と同じである。日頃から意識してポジティブな感情を湧かせるようにして、判断の天秤を整えるようにしましょう。
価値観の育て方
判断基準を整える方法は、先に説明した「判断の天秤」のバランスが整うように意識的にインプットを変えることである。意識的にインプットを変え続けることは非常に労力がかかるため、低コストで継続できるようにすることである。その低コストな方法は、言葉から変えることである。
今までと同じインプット(言葉、行動、思考)では、今までと同じ延長線上にしかいられない。インプットを変化させることで別の延長線上へ行くことができる。その方法で効果的なのが、習慣化である。
有名なマザー・テレサの「5つの気をつけなさい」の言葉を今までの内容を踏まえて解釈すると次のようになる。
意識的に言葉・思考・行動を変えなさい。続ければ、だんだん無意識的にできるようになる。無意識にできるようになれば、良い言葉・良い思考・良い行動が自分のインプットとなり、低コストで判断の天秤のバランスがとれるようになる。判断の天秤のバランスが整い、物事をあるがまま捉えれば、誤解がなくなる。すると、人間関係の悩みが減少し、人から好かれ、常に幸運が舞い込んでくるようになる。
無意識についても考え方を説明する。自宅の鍵を閉め忘れたかもしれないと思っても、実際に確認してみるとちゃんと鍵が閉まっているという経験はないだろうか?その他にも電話をしながらでも目的地に歩いて行けるなど、日常的に人は無意識を利用して「低コスト化」(意識のエネルギーを消費することなく自動的に行えるようになっている)をしている。
意識と無意識は同じであり、意見が異なることはない。意識的に行うことで、無意識に覚えこませることができる。無意識は低コストで効果が非常に大きい。頭の中の言葉や口癖なども同じく無意識を使っている。特に頭の中の言葉は反芻しやすいため、判断の天秤のバランスに多大な影響を及ぼす。
人間には選択回数の上限があるとされる。これは、この選択には意識のエネルギーを使うため、意識のエネルギーにも上限があることを意味する。意識のエネルギーがなくなると、深く思考することができなくなり、人は楽な方向へ進んでしまう(思考レベルが低下し、他者に操られやすくなる。スマホなどが一例である)。そのため、出来るだけ低コストの無意識で日頃判断の天秤を整えるようにしたい。最も簡単で効果が高いのが、言葉をすべてポジティブに変えることである。口癖、頭の中の言葉までポジティブになれば、あとは自動的にバランスが整う。
相手目線を鍛える方法
相手目線を鍛える方法は、次の二つの要素がそろう場所へ行くことである。
① 自分が理解できないこと
② 相手が理解してくれないこと
具体的には、結婚、子供と接する、年の離れた人と接する、海外留学などである。このような状況に身を置くことで、価値観を一度崩壊させ、再構築することができ、一回りも二回りも成長することができる。
他者から見た性格は、行動でしか分からない
他者から見た性格は、自分の言動でしか伝わらない。自分が誠実でありたいと思っていても、言動が伴っていないと、相手には誠実な人間には見えない。当たり前のことだが、そこを理解して行動している人は少ない。
そして、その受け取り方は他者の主観に依存する。ここで言いたいのは、目に見える欠落は理解できるが、目に見えない欠落は他者には理解されにくいということである。内面的な特性は非常に理解しにくい。だからこそ、仲良くなりたい人には自分の特性を説明する必要がある。
例えば、私は日本語が読めない。具体的には、処理に非常に時間がかかるし、誤認もする。認知の歪みによって、自分でもなぜそうなるのか理解できない。ただし、これは不可避であり、何年も努力したが治らなかった。これが原因で過去にトラブルになることも多かった。
身体的な特徴と違い、内面は他者から見えないため理解されにくい。その前提で他者と接することができれば、相手を判断することなく、多面的に人を見ることができ、相手を受け入れることができるようになる。
相手の性格・行動を変える
相手の性格や行動を替えさせることは可能であるが、すごく時間がかかる。インプットを替えつつ、勇気づけすることで自発的な成長を促す方法である。相手をまず満たしてあげると変化が早くなる。時間をかけて、その人がよい方向へ成長するように勇気づける。これができるのであれば、その人は既に愛することができている。子供への愛とはそういうことである。
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愛するための4つの力については、別途記事を書いていく予定です。
① 自分を満たす力
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② 他者を受け入れる力
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③ 他者に貢献する力
https://library.libecity.com/articles/01JVM1NTMVECTFXN4P0WNMCB6W
④ 心をクリーンに保つ力
https://library.libecity.com/articles/01JVKYRRSEJMA2567TFCQ979X5