- 投稿日:2025/08/24
- 更新日:2025/09/29

はじめに
みなさんはマルチ商法に勧誘されたことはありますか?
私は残念ながらありません。(一度くらいはア〇ウェイのBBQに参加してみたいですね。)
そして、勧誘されたことがある人もない人も、おそらくは大半の人がこう思っているのではないでしょうか?
「自分はマルチに引っ掛かるわけがない」
果たしてそうでしょうか?これだけ巷にマルチ商法が溢れているのです。つまりは存続できる=引っかかってる人がいる。という構図が成り立ちます。
ヒトには自分だけは大丈夫だと思う楽観性バイアスが存在します。皆さんも他人事とは思わずに、マルチの構造を理解して、「あ、これは進研〇ミでやったやつ!」というアハ体験を出来るようにしましょう。
注)本記事を悪用して、マルチのトップになったり、教祖になったり、似非科学を伝道したりするかもしれませんが、オススメしませんし、責任も取りません。
なぜマルチに詳しくなったのか?
似非科学にツッコミを入れるのが大好物です
元々科学系の大学を卒業し、就職後も主にデータや書類を扱っていたため、いわゆる理系分野に強くなっていきました。
ところが社会に出ると世の中には色々な似非科学的な商品や情報が飛び交っているんですよね。
「ナントカ水」「化学的な〇〇な食べ物は体に悪い」「天然の〇〇は体に良い」「ゆるキャラに似た語感の二酸化炭素抑制装置」こういった似非科学な高額商品にツッコミを入れるのが大好物です。
いかに上手にツッコミを入れらるか?という性格の悪さが凝縮されたような思考の持ち主であります。
上手にツッコミを入れるためには、色々と引き出しを持っておく必要あります。
そのために、関連する書籍を読んだり情報を収集しているうちに自然とマルチに詳しくなってしまったいうのが、私です。
人の底すら知れぬ悪意の塊ですね。
似非科学とマルチの関連性
「オマエが似非科学を眺めるのが好きなのはわかったけど、マルチと関係ないじゃん」と思ったそこのアナタ。いい着眼点をしてますね。
しかし、実は関係があるのです。マルチ(後述しますが、カルト宗教も)と似非科学は非常に相性が良く、隣接分野です。
共通点は「銀の弾丸(安易な解決法)をバラまくこと」
この辺は投資詐欺や情報商材も本質は同じなのですが、別記事でまとめてますので、今回は割愛します。
とにかく、似非科学はマルチと隣接しているということだけ、なんとなくでいいので理解しておいてください。
そして、それはヒトの本能であり、困っているとき、弱っているときに縋りたくなるというのも本記事のテーマです。
よく誤解されていますが、マルチとは「頭の悪い一部の情報弱者が引っ掛かるもの」ではなく「誰でも引っ掛かりうる、ヒトの弱点をついたもの」ということです。
もちろん、こんな記事を書いている私も、将来的には取り込まれたり、開祖する可能性はあるわけです。今のところ、まだ引っ掛かったことが無いと言うだけの話です。
お前が深淵を覗くとき、深淵もまたお前を覗いているのだ。
マルチとは悪性のコミュニティである
マルチ商法とは何か、という問はなかなか難しいところがあります。
辞書的な意味で言えば
個人を販売員として勧誘し、更にその個人に次の販売員の勧誘をさせるという形で、販売組織を連鎖的に拡大して行う商品(権利)・役務の取引のこと。
特定商取引ガイド HP|https://www.no-trouble.caa.go.jp/what/multilevelmarketing/
といったところですが、販売形態や契約形態の多様さから複雑化しており、実際には世間にはマルチは溢れている存在です。
最終的には末端の会員が無価値なものを高額で購入させられて、損をする。というお決まりのパターンになるわけですが、価値とは何か?高額とはいくらなのか?と言う話も発生するため、一口に言い表すことは出来ません。
そこで、私は本記事では敢えて振り切った表現として「悪いコミュニティ」と示すことにします。
ここからは悪いコミュニティの形成の仕組みと特徴について解説していきます。
参考文献である
「完全教祖マニュアル」
「カルトの言葉」
の2冊は特にマルチの本質をついています。
両書とも主に「人間が反社会的なコミュニティにハマってしまう仕組み」がまとめてあります。
どのようにマルチ組織を作るのか?を考えることで、既存のマルチ組織がどのようなパターンに当てはまるかを構造化することが出来ます。そして、その構造化こそが、実際に自分がマルチにハマってしまいそうになったときに、抜け出すきっかけとなるのです。
これこそがまさしく「あ、これ進研〇ミでやったやつ!」というアハ体験の源泉です。
というわけで、いくつかの特徴を解説していきます。
注意していただきたいのは、これらの特徴を兼ね備えているからと言って全てが悪いコミュニティとは限りません。後述しますが、良いコミュニティと悪いコミュニティの境は曖昧で地続きです。
コミュニティに集客する
教えは単純化してある
コミュニティを作るにあたって、最も大事なのは集客です。対象者の選別などせずに、老若男女誰でも入れるコミュニティが望ましいでしょう。そのため、間口は広くしなければなりません。選ばれたエリートしか入れないコミュニティでは集客は見込めません。
そのため、教えは極力単純化されてます。「誰でも簡単に成功できる」と思わせて、ロールモデルを用意して「自分にも出来るかも」と思わせるのが重要なのです。
義務を与えている
楽して儲けたいと思うのは人間の常です。しかしながら、人間はワガママな生き物で、何もせずに成功が転がり込んでくると不安に感じます。その不安を払拭するためには、代価が必要なのです。
ここで重要なのは代価を払う行為と結果に関連性は必要ないということです。
例えば、ダイエットをしたければ、適切なカロリー摂取と運動が必要です。
善行を積めば痩せることが出来るなどと思っている人はおそらく少数派でしょう。しかし、中にはダイエットのために徳を積んでいるという人間もいるかもしれません。これを前後即因果の誤謬と言います。
ダイエットの例は極端な例ですが、実際には似たような理論がそこら中にあります。
ほら、パワーストーンを買えば儲かるなどと聞いたことはありませんか?神社に行ったら成功すると思ってませんか?家の風水の配置を変えたら、人生がうまく行くと言ってる人を見たことはありませんか?
実はアレ、流行った背景があるんです。後述の似非科学理論と組み合わせれば最強になります。
ヒトの本能として、関係のないものを紐づけして、(誤った)要因を特定してしまうというものがあります。
そのため「苦労する=この先良いことがある」と誤認して、苦労をすること自体に価値を見出してしまいます。
即物的な利益を謳っている
前述において、義務を与えて苦労させることで、この先良いことがあるぞ!と期待させる手法を説明しました。しかし、人間は長期間の苦痛には耐えられないもの。たまには甘い汁を吸いたくなってしまいます。
やはり大衆に迎合してニーズに答えるためには間口は広くしなければなりません。ロールモデルを広告塔として全面に押し出し、
「普通の会社員でも、わずか3か月で月商100万突破!」などと謳うことで誰でも確実に、すぐに結果が出せるように錯覚させます。
実際に何か月かやってみて結果が出ないときは、
「おまえは〇〇はやったのか」
「やるべきことはすべてやれ!全力を出せ!」
「覚悟が足りない!お前に必要なのは成功するためのマインドだ!」
などとここぞとばかりに自己責任論を押し付けられて、新たな商品や教材を買わされる羽目になるでしょう。
本来であれば未来は不確定なもの。副業を真面目にやってる人ならわかると思いますが、今の苦労がいつ実を結ぶかわかりませんし、そもそも実を結ばない可能性だってあります。
しかし、マルチでは直近で甘い汁が吸えることをちらつかせて、義務を課します。そうすると、「あと少し我慢すれば・・・!」と思わせて永遠に搾り取ることが可能なのです。
(似非)科学的である
さてさて、ここにきて、冒頭の私の趣味に戻ってきました。似非科学はマルチ商法と相性抜群です。なぜなら、マルチというのはとても胡散臭いからです。胡散臭さを脱臭するためにはどうすればいいでしょうか?そう、科学的な体裁を取るのです(体裁なので、実際には科学的ではありません)。
代価を払う行為と結果に関連性は必ずしも必要はないということを前述しました。願っただけで結果につながる、そう言われても胡散臭さが抜群です。しかし、科学的であるという味付けをするとどうでしょうか。
「願いには量子力学のパワーがあり、熱心に願うことで結果につながると科学的に証明されている。」
どうでしょう?一気に本当のことっぽくなりましたよね?
どうせ、誰も本当の量子力学など分かっていないので、適当に言い張っておけば科学に興味のない一定数の人が無条件で信用してくれます(※1)。
科学的証明とは本来は様々な検証に耐えられる手法と結果が必要なのですが、これもどうせ誰も検証しないので、科学的に証明されている、エビデンスがある、などと言い張っている人は枚挙にいとまがありません。
※1 あ、ちゃんと量子力学を修めた人は石を投げるのは辞めてください。
コラム 「似非科学とアメリカ社会と自己啓発」
自己啓発本という本の種類があるのは日本とアメリカだけらしいです。詳細は割愛しますが、アメリカ社会の変遷の中で自己啓発本の流行りのスタイルが「自己努力系⇒引き寄せ系⇒ポジティブ批判系」へと変遷しています。
自己努力系は代表作「7つの習慣」にあるように、自分を(努力して)変えることで世界(の見え方)が変わるという、シンプルながらそこそこ筋の通った内容です。
一方で引き寄せ系は代表作として「原因と結果の法則」がありますが、そうしても自己努力系に比べて、説得力に欠ける。というわけで、パンチ力を上げるための味付けとして「科学的である」というワードが採用されているのではないか思われます。日本でも「水からの伝言」を道徳の教材として採用したりしてたこともあるらしいですからね。ちなみに「水からの伝言」は英訳されて、アメリカでも売れてるらしいです。
こういった背景もあり、マルチでも願いを現実化するために似非科学を採用していくのは至極当然である気もしてきますよね。何と言っても「科学的である」というワードを用いるだけで、強烈に味付け出来るんですから。
さて、マルチの話とは逸れますが、自己啓発系はここからはポジティブ批判系へと遷移します。前段階として「チーズはどこへ消えた」のように、環境変化をポジティブに受け入れようという本が1998年ごろに流行しました。この背景として、当時アメリカが不景気でバンバン社員のクビを切っていたのですが、その時の社長にとって都合が良かったんですよね。
つまり、クビにする社員に対して
「もうチーズはない!新しいチーズを探せ」
といって会社を追い出すわけです。なかなかグロテスクですね(笑)
環境の変化はその人自身の責任ではなく、どうしようもないこともあります。それに対して、不利益を被った本人があまりにもポジティブに受け取る姿勢に対して、病的だと批判したのが、ポジティブ批判系自己啓発書です。
個人的に知っている和書で言うと、「なぜ私たちは燃え尽きてしまうのか(訳書)」「なぜ働いていると本が読めなくなるのか」あたりが該当していて、日本でも現在結構流行っているジャンルです。
詳しくは、参考書籍の
「アメリカは自己啓発本で出来ている」
にまとめられていますので、興味がある人は是非!
コミュニティをより強固にする
さて、ここからはコミュニティ自体の結束力を高めて、抜け出しにくくする手法を解説します。この性質がマルチの厄介なところであり、お金だけでなく人間関係も失ってしまう所以です。
独特の言葉を作っている
仲間内の結束力を高めるために手っ取り早いのは、仲間内でしか通用しない言葉を使うことです。そうすることにより、外部と内部をより明確に仕分けすること出来て、内部の結束力は高まります。実例を出すと角が立ちまくるので、控えておきます。皆さんも、ぜひ探して見てください。
後述しますが、これはマルチに限らず、多くのコミュニティに共通しています。
既存の言葉に本来とは違う意味を与えられている
独自の造語や話題であれば、健全なコミュニティでも良くある話です。それこそ、会社や学校の部活やクラス、家族でしか通じない話なんかもあるでしょう。いわゆる身内ノリってやつです。
マルチの場合はもう一歩進んで、既存の言葉に本来とは異なる意味を与えます。そうすることで、コミュニティ外部の人と話に齟齬が発生して、よりコミュニティ内部の結束力が高まるのです。
これも実例を出すと角が立ちまくるので、フィクションの話をします。
羽田圭介の小説「phantom」内にて、とあるコミュニティで
「無我にする」というワードが使われます。
無我は本来は仏教用語で、我欲・私心がないことを指しています。
ざっくり言うと、「悟りを開いた状態」だとでも思ってください。
無我にするというワード自体は少し変ですが(本来は自分で達するものなので)、まぁ普通に考えれば、修行を課す、鍛錬を積ませるといった意味合いにでもなるでしょうか。
ところが、物語内では「無我にする」はハッキリとは描写されていませんが、強制的に思考能力を奪う、マインドコントールによる再教育といった意味合いが強いです。まぁモデルになった事件やコミュニティがあるので、リアルな描写と言えるでしょう。
このように、既にある言葉に本来とは別の意味を与える行為は、結構大きな特徴であり、知っておくとコミュニティにハマる前に抜け出せるかもしれません。
孤立してる人を取り込んでいる
複数のコミュニティに入っていると、マルチの不自然さに気付いてしまうかもしれません。マルチ側からしたら、自分のコミュニティのみにどっぷりとつかってもらっている方が都合が良いでしょう。
上京したての若者などはコミュニティに属していないことがあり、孤立しがちです。
最近よく聞く手口として、道行く人に近所の飲み屋やご飯屋を教えてくださいと声をかけてくるパターンがあるそうです。そして教えてもらったお礼がしたいからと連絡先を交換しようとしてきます。
ナンパと間違えられるのを避けるために、男女2人1組で声をかけて来たり、同性に声をかけるパターンもあるそうです。マルチ側も常に手口を更新していますね。
おのぼりさんの風貌をして、都会をうろつくと声をかけられてしまうかもしれませんね。
私がマルチに声をかけられないのは純粋な田舎者だからかもしれません。
あとは経済的に困っている人とか、病気になった人なんかも取り込まれやすいです。精神的に弱っているので、なんとか救いの手を求めてしまうんですよね。
貧乏人なんか取り込んでも旨味は少ない。だから貧乏人は狙われない。
と思っていませんか?
そんなことはありません。まずはコミュニティの大きさがそのまま集金力になるので、どんな人間でも取り込んできます。間口は広いほうがいいですからね。お金がなくても家族から回収する、借金をさせるなど、集金する方法はいくらでもあります。
また、日本は時給が高いので、労働していればそこそこのお金が手に入ります。
お金を持っていなくても、ちゃんと狙われるので注意してください。
現代社会になじめてない人を探している
前述とやや重複していますが、現代社会になじめていて、それなりに幸せな人はマルチなんか始めようとは思いません。
現代の仕組みに取り残された人、不遇をかこっている人、不満がある人はマルチに取って格好のターゲットでしょう。
何故ならば、マルチとは「社会という巨悪と戦って、勝利した成功者」をロールモデルにしているからです。既に一般においてもマルチという言葉自体が薄っすらと反社会的空気を醸し出しているのですが、敢えてそこを利用して勧誘してくるのです。現代社会に取り残されてしまった人は、今の生活の延長に希望を持てません。そこで、社会システム自体の裏をかいて一発逆転をしたいと思っているのです。派生形として現代社会の仕組みを乗りこなす、現代社会の仕組みをハックするなどもありますが、いずれも現代社会でそこそこ幸せな人には刺さらず、逆に不満がある人に刺さりやすいです。
単純な二項対立を煽っている
内部の結束力を高める手段として、敵を作るというのも非常に手っ取り早い手段です。
世界には悪など存在せず、正義の反対は別の正義という言論はもはやクリシェではありますが、ヒトは心のどこか奥底では悪というものがあってほしく、そのうえで自分は正義の側に立ちたい生き物なのでしょう。
現代社会に取り残された人を囲っているので、敵は政府や大企業などが良く格好の的として、標的にされます。敵は大きいほうが、立ち向かっているの時の快感も大きくなるものです。
他のマルチや商品をディスっている
正義が我にあるのならば、悪は一体どこにあるのでしょう?
そう、周囲のコミュニティですね。
というわけで、自身のコミュニティこそが唯一無二の良いものであり、絶対であるという旗を掲げて、他のコミュニティをこき下ろします。
商品も大企業が作った〇〇は大量生産されているので品質が悪い。その点うちの〇〇はオーダーメイドで天然の〇〇にこだわって、品質が良いなどと言えば完璧でしょう。多少値段が高くても、むしろ値段が高いほうが良いものであると誤認してくれて、コミュニティ内で売れてくれるはずです。
このときに前述した独自の言葉(作用)や似非科学と悪魔合体させることで最強の呪物が爆誕します。
敵が見つからないときは、内部粛清をしている
正義を掲げて、悪を打倒してしまった場合には、問題が発生します。
世界が平和になるかと思いきや、そんなことにはならずに、敵がいなくなり結束力が弱まってしまうのです。
これこそが、マルチ上層部のパラドックスですね。
しかし、そんな問題を一発で解決する魔法のような手法があるのです。
それは新しい悪をつくること。
敵がいなければ作ればいいのです。コミュニティが大きくなってくれば、当然ながら会員同士で細かい部分の意見食い違いが発生するでしょう。まともなコミュニティであれば、話し合いによる軌道修正や歩み寄りによる妥協案などが発生しそうなものですが、マルチではそんなことはしません。
意見が食い違う会員は異教徒として、迫害すればよいのです。そうすることで、邪魔者を排除できるだけでなく、残った会員の結束力をより強固にすることが出来ます。我々こそが正統派なのだ、といった形ですね。
粛清、内ゲバは歴史上様々な組織で見られる伝統芸ですので、やはり組織の結束力を高める上で有効な手段と言えるでしょう。
世間や他者から批判を受けて結束力を高めている
外から見ると明らかにヤバいコミュニティなのですが、中の人は気づかないのか?と疑問に思ったことはありませんか?
ヒトには確証バイアスといって、様々な情報の中から元々の思い込みを強化するために情報を抜き出すクセがあります。さらにコミュニティに所属していると、コミュニティ内では同じような意見を持った人が多く、常に同じ意見を見聞きすることで、それ以外の意見は間違っているかのように錯覚します。これをエコーチェンバー現象と言います。
迫害に立ち向かうリーダーの姿を見たら、「正しいのはオレ達だ」「間違っているのはあいつら(世間)の方だ」「力をつけてきた我々を恐れているのだ」などと思っている会員が多数なのです。
というわけで、他者から批判されればされるほど、組織内のコミュニティはより強固になり、コミュニティ内の教えは正しいものであるという認識が会員内では広がっていきます。
コラム 我々か我々以外か?
なぜマルチは常に敵と戦っているのでしょうか?
いったい何と戦っているんだ?
実はそれ、ヒトの本能と関係しています。
進化の過程で、ヒトは自己家畜化を進め、集団内での争いを避けることで協力的な社会を築いてきました。しかし、この協調性は「集団内部」に限定されたものです。一方で、外部の集団に対しては強い警戒心や敵意を抱くという本能が温存されました。これは、部族間の競争を生き抜くための、合理的なメカニズムです。
その結果、私たちは「我々」に対しては協調・協力をする一方で、「我々以外」に対しては非常に攻撃的で排他的な二面性を身につけました。
この本能は、現代でも私たちの中に息づいています。「自分にはそんな攻撃性はない」と思うかもしれません。
しかし、それは「反応的攻撃性」をイメージしているからでしょう。これはカッとなって目の前の人間を殴ったり、怒鳴ったりするような衝動的な攻撃性のことです。
現代社会でより顕著になっているのは、もう一つの攻撃性である「能動的攻撃性」です。これは、自分の目的や利益を達成するための手段として、意図的かつ計画的に行われる攻撃です。
SNSで特定の人物や集団を執拗にバッシングしたり、陰湿な噂話を流したりする行為は、まさにこの能動攻撃性の現れと言えます。
現代では目と目が合ったらタイマンステゴロバトルをするようなヤンキーは絶滅危惧種ですが、SNSで好き勝手言ってる陰キャは山のように存在します。
処刑の見学は中世からの娯楽であり、現代の娯楽は自分とは関係のない不倫や不祥事を起こした有名人をSNSで好き勝手に叩くことなのです。
悪いコミュニティと良いコミュニティの違いとは?
色々な手法を紹介しましたが、後半の過激な部分はともかく、どのコミュニティも大なり小なりは発生している事柄も多い物です。コミュニティの善し悪しは白黒ハッキリと分かれているものではなく、なんとなくなグラデーションなものです。
それでもやはりなんとなくで良いから見分けを付けたいものですよね。
というわけで、善し悪しを分かつ特徴を説明していきます。
抜けるのにコストがかからない
個人的には一番の特徴はこれかなと思っています。良いコミュニティでは自由意志で脱退するのにコストはかかりません。決断するだけです。
一方で悪いコミュニティでは「これまでにかかったコストを思い出せ!この先でやっと回収できるんだぞ!」のようにサンクコストバイアスを攻めてくるのはもちろんのこと、脱会費用がかかったり、裏切り者として迫害される可能性もあります。
脱退後もそのコミュニティの人と仲良くできる
前述とやや重複しますが、抜けた後もそのコミュニティの人間と仲良く出来るなら問題ないと言えるでしょう。コミュニティ会員としての繋がりしかない、金銭での繋がりしかないと言った場合は、脱退後にはわざわざ時間を使って遊んだりしないものです。
同窓会など最たる例で、たまたま同じ学級に通ってただけなのに、時を経ても友達として再開します。会社でも円満退職すれば、元同僚と遊ぶことに抵抗はないでしょう。
教えが極端ではない
教えは単純であるほうがわかりやすいのですが、単純すぎると二項対立を煽ることになってしまいます。世界は複雑なので、〇〇は悪で△△は正義のような世界観では客観的に物事を見ているとは言い難いでしょう。本来は人の幸せの形には様々な形態があるはずですが、物事を一面的に捉え単純化している場合は、少し危険かもしれません。
あなたと大切な家族を守るために
さて、マルチの手法について解説しましたが、より大事なのは、「自分がハマらないこと」「家族がハマらないこと、ハマった家族を助け出すこと」でしょう。分解して解説していきましょう。
自分がハマらないための注意点
マルチにハマらない方法と言いましたが、仕組みをちゃんと読んでいただければわかると思いますが、非常に難しいです。冒頭で紹介したように「誰でも引っ掛かりうる、ヒトの弱点をついたもの」だからです。誰でもハマってしまう素養があるんですよね。そのことを念頭においてください。
✅楽な道はないと知ろう
基本的に資産を形成するというのは楽ではない道のりです。ショートカットをしようとする落とし穴にハマってしまうものです。ショートカット出来るよ、なんて言ってる奴は大抵ロクでもない奴なので、関わらないようにしましょう。
銀の弾丸などない!
✅世の中に対して過度な不満・期待を持たないようにしよう
世の中とは得てして自分の思い通りにはいかないものです。
しかしながら、「俺が不遇をかこっているのは社会が悪い」「今の資本主義システムは不公平だ」「俺が金持ちになる裏道もあるはずだ」などと思ってはいけません。そういう人こそマルチの絶好のカモなのです。
「不公平な社会のせいで自分は報われない」と感じると、その不満を解消するために、「苦労している自分こそが報われるべきだ」と考えるようになります。これは、「苦労は報われる」という信念(世界公平仮説) と結びつき、非合理的な道に引き込まれるリスクを高めます。
また過度な不満とは逆に、他者に過度な期待を持ち過ぎて行動をすると、達成できなかった場合に自分の払ったコスト(時間・労力・お金)が後から気になることもあります。可愛さ余って憎さ100倍。いわゆる反転アンチの出来上がりです。過剰に期待したり、のめり込むことも避けましょう。
自分がコントロールできるのは自分だけ、他者をコントロールしようとすると自分すらコントロール出来なくなってしまうので、境界線はハッキリと持ちましょう。
✅コミュニティを複数持とう
一つのコミュニティにハマると思考が先鋭化してきます。異常さに気付くことが難しくなるうえに、排他的になっていき、ますます先鋭化するという悪循環にハマってしまうでしょう。
コミュニティも長期投資と同じで分散投資が重要です。卵は一つのカゴに盛らないようにしましょう。
✅ヒトの本能的な思考のクセを理解しよう
マルチは「認知不協和の解消、前後即因果の誤謬、能動的攻撃性の利用、サンクコストバイアス、確証バイアス、エコーチェンバー」などの様々なヒトの本能的なクセを利用してきます。このクセ自体は誰にでもあるし、抑えることは難しいです。
そのため、そのようなクセがあるという理解だけしておきましょう。そうすると、後で抜け出すためのフックとなるかもしれません。
なお、それぞれの用語については本記事ではキチンと解説していないので詳細は各自で調べてみてください。
他人を助けるのはとても難しい
自分がハマらないようにするためのいくつかの注意すべき点を前章で説明しました。構造化して説明したように、マルチの基本は独自のコミュニティに引き込み、外界から遮断することです。
批判や迫害すら結束力というパワーに変換するため、コミュニティ外からの意見は真っ当な物であっても、基本的には本人には届きません。
そのため、ハマってしまった他人を助け出す場合には相当な努力が必要だと思ってください。冷たいことを言ってしまうと、関係性によっては諦めて見捨てたほうがお互いのためになる場合すらあります。見捨てられた側はより孤立し、コミュニティの結束が強くなってしまうという問題がありますが、解決できないものは出来ないので、諦めましょう。
ちなみに私がマルチを始めたり、カルト宗教を開祖しようとしたら、親しい知り合いの方には鉄の棒か何かでぶん殴ってもらいたいと思っています。よろしくお願いします。
それでも他人を助けたい
基本的にデータを用いた理路整然とした説得は逆効果です。アナタは敵認定されて、助けたい人はますますコミュニティにのめり込むでしょう。データではなく感情で動かしてみてください。
✅雰囲気で騙し返す
助けたい人が一番信用している人を探してください。当然ですが、ハマっているコミュニティの外部の人で、です。そして、その人に根回しして情報提供をしましょう。
その時に現在のコミュニティの批判はせずに、別の無害なコミュニティ(※2)に誘ってみるのが良いでしょう。結局コミュニティにハマってるだけなので、ハマる対象をすり替えてしまえばよいのです。
良く聞く話で、老後に暇になった親がテレビを見なくなった代わりにyoutubeの陰謀論のハマってしまったという残念な話があります。そうならないために、ちゃんとテレビでくだらないワイドショーや使い古されたドラマの再放送などを見せておいたほうが良いでしょう。
※2 リベシティあたりがいいのではないでしょうか
✅自分で情報を探させる
ヒトは何故か自ら収集したり閃いたアイデアは正しいと思ってしまう生き物です。こっそりと本などをテーブルに置いておき、自発的に正しい情報に触れる機会を与えてみましょう。
まとめ
✅マルチ被害とはコミュニティにハマってしまう行為
✅集客方法とコミュニティ強化方法は様々
✅ヒトの本能的な思考のクセをついているので、誰でも引っ掛かる
✅知識を持っておけば、ハマりにくいかも
参考資料
参考書籍
尾崎俊介(著)
アメリカは自己啓発本で出来ている
アマンダ・モンテル(著), 青木音
カルトの言葉 なぜ人は魅了され、狂信してしまうのか
架神恭介(著), 辰巳一世(著)
完全教祖マニュアル
アビジット・V・バナジー (著), エスター・デュフロ (著), 山形浩生 (翻訳)
貧乏人の経済学――もういちど貧困問題を根っこから考える
登場小説
羽田 圭介 (著)
phantom
参考漫画
甲斐谷忍 (著), 夏原武 (著)
カモのネギには毒がある 加茂教授の人間経済学講義
参考動画
雰囲気で騙し返す方法
どうしたらいい!?怪しい商法にハマる家族
情報商材を買った人の末路(フィクション)
闇金ウシジマくん フリーエージェント編
参考WEBサイト
特定商取引ガイド
連鎖販売取引
関連記事
銀の弾丸などない!
https://library.libecity.com/articles/01JHJEM88ZZKPBQC8XR02W3BY1
科学的なデータの見方
https://library.libecity.com/articles/01HHHY07100BG0CFRR2JXC44T7
病気になると騙されやすくなる理由
https://library.libecity.com/articles/01JECSKJ82A3QWNJG4D01YKPZ9
似非科学でヒトを騙す方法
https://library.libecity.com/articles/01JKFG1ZMEHAW6TCREAK7Y0Q36
科学的に正しい って雰囲気で言ってない?
https://library.libecity.com/articles/01JKX9T2D6DNFS8YHJKV83W40Q