- 投稿日:2024/11/04
- 更新日:2025/09/29
注意点
害虫駆除において種類を特定すること("同定"といいます)は必須です。そのため、写真は実写を使いますので、見るのも嫌!という人はブラウザバックしてください。
(ページ下部"図鑑"に写真使用。まとめより下に配置)
害虫とは?
ゴキブリ編の冒頭に記載しておりますので、主な害虫の分類はそちらを参照ください。
早速ですがクモは害虫ではありません。むしろ、ゴキブリとかアリを食べてくれるので益虫です。本来ではあれば、いればいるほど良いので、退治する必要など皆無なのですが、ごく稀にどうしても嫌だという人がいます。
私は多様性(ダイバーシティ)にも生物多様性(バイオダイバーシティ)にも非常に配慮しているので、クモがどうしても嫌だという風変わりなヒトにも対応させていただきます。
クモがいると嫌だという少数派の皆様に向けて、どうしたらクモを見なくて生活できるようになるかというのが本記事の趣旨でございます。
クモとは?
昆虫じゃない
知ってる人も多いと思いますが、クモは昆虫ではありません。じゃあ、なんなの?と聞かれれば"クモガタ動物"です。同じ仲間ではダニ、サソリ、サソリモドキ、ザトウムシ、カニムシ、ヒヨケムシなどが属します。後半はちょっとマニアックな生き物なので、見たことない人も多いかもしれませんね。
図1.昆虫とムシの違いについて
日本には1700種以上いる
クモの仲間は日本において2024年10月現在で約1,706種が確認されており、私が研究していた、2000年代から200種ほど増えています。
これは別に新種が発生したわけではなく、記載されただけです。
新種とは何か?という問いについて詳しく知りたい人は下記の参考文献をご覧ください。
参考文献|新種発見! 見つけて、調べて、名付ける方法
巣を張るクモは意外と少ない
クモと言えばクモの巣ですが、クモの巣を張らずに走り回って、餌を捕まえるクモ(※1)もいます。意外なことに、全体の種類としては大体半数は走り回るタイプのクモです。
さらにクモの巣を作るタイプ(※2)でも図2のような、いわゆるクモの巣を作るタイプ(※3)はさらに少なく、個人的感覚で全体の2割程度しか、このタイプの巣を作りません。
図.2 いわゆるクモの巣(実はこの図は間違っている。さらにこれをクモの"巣"というとモグリだと思われるので、玄人ぶりたい人はクモの"網"と言うべし)
※1 徘徊種(はいかいしゅ)と言う
※2 造網種(ぞうもうしゅ)と言う
※3 円網種(えんもうしゅ)と言う
毒グモは基本的に気にしなくてよい
毒グモとは何か?という話になってしまいますが、毒を所有しているクモを毒グモとするなら、すべてのクモは毒グモです。しかし、ヒトに大きなダメージを与えるクモは日本にはほとんどいません。
在来種だとカバキコマチグモ、外来種だとセアカゴケグモやハイイロゴケグモが結構強めの毒を持ってますが、噛まれる機会はほぼないので、対策をする優先度はかなり低いでしょう。
日本においてはクモよりヒトのほうがはるかに恐ろしい生物なので、クモ毒を気にする必要はほとんどないです。
いわゆる"クモの巣"は家の中には無い
さて、そろそろクモ対策の話をしていきますが、前提として家の中にはいわゆるクモの巣はほとんどありません。私はかつて1度だけ見たことがありますが、もし頻繁にみるという方がいたら連絡ください。個人的に非常に興味深いので詳しく聞きたいです。
走り回るクモ
✅ハエトリグモ類
1cm前後の小型のクモ。その名の通りハエを良く食べます。英名ではJumping Spiderといい、ぴょんぴょんと跳ねるように移動します。
割とカラフルな種類が多いですが、オスとメスで模様が違う種類が多い(※4)ので、別種かと思いきや同種だったりすることもよくあります。
ペットとしても人気があり、江戸時代から鷹の代わりに座敷鷹と言われ、飼われてきた文化もあります。
※4 求愛のためのカラーパターンという説が有力
✅アシダカグモ類
体長2cm前後の大型のクモ。色は茶褐色をしています。2cmというと大したことないように聞こえますが、足を広げると手のひらほどのサイズがあるので、人によっては威圧感を感じます。
主な餌はゴキブリ、カマドウマなどの比較的大型の昆虫です。
本州には屋内にいるのはアシダカグモ1種しかいませんが、沖縄ではアシダカグモとコアシダカグモが屋内に入り乱れています。また、なぜか本州産と沖縄産でアシダカグモの背中の模様が違うので、玄人になると写真だけで産地がわかるようになります。
巣を張るクモ
家の中には巣を張るクモはいないって言ったじゃないか!とツッコミを入れたそこのアナタ。半分正解、半分間違いです。
図2のような巣を張るクモがいないといったのであって、巣を作らないとは言っていません。違う形の巣を作ります。形は種類によって異なってきますが、天井に近い高い位置にいたらユウレイグモ類、玄関や洗面所の角など足元の低い位置にいたらヒメグモ類だと思っておけば大体OKです。
✅ユウレイグモ類
屋内によくみられるクモです。自然界では洞窟などにいます。足が細長く白っぽい淡い色の種類が多いです。
シート状の不規則な網を作り、接地面のみに粘着性があります。クモの仲間は通常では眼が8個ありますが、ユウレイグモ類では眼が6個の種類もいます。
✅ヒメグモ類
日本で非常によく見られるクモの仲間です。まん丸のお腹をしている種類が多いです。色は赤色の目立つ種類もいれば、茶褐色の地味な種類もいます。
立体状の網を作り、接地面のみに粘着物質をつけています。主な餌はアリやダンゴムシなどの地面を歩く虫です。
クモを退治するには
殺虫剤
害虫退治においては基本的に置き餌タイプ(ベイト剤)を推奨しているのですが、クモについてはベイト剤はないので、スプレーを使うことになります。
クモ用殺虫剤と謳われている商品を見ると有効成分はビフェントリンとなっていました。ナトリウムチャンネルに効く物質のようなので、節足動物全般に効きます。
○○用殺虫剤とか色々売ってますけど、作用機構が同じなら大体同じなので、家庭で使うなら(※3)それほど気にしなくていいです。
つまり、その辺においてある殺虫剤なら大体何でも効くという話です。
わざわざクモ用で何か買う必要はないと思います。
※3 販売用作物に使う場合は農薬取締法の対象となり、対象作物及び
対象生物が事細かに定められているので、要注意。
住みにくい環境づくり
クモはほぼ全て肉食性です。したがって、あなたの家にいるのであれば、それは餌があるからということに他なりません。
クモは、餌がいなくなればさっさと他所へ行くので、実際のところクモをわざわざ退治するくらいなら、餌を退治して減らしたほうがいいと思います。
冒頭にて、害虫ではないので退治する必要はないと言ったのも、この辺りに起因します。
屋内の主な餌はゴキブリ、ハエ、ダンゴムシ、アリなどです。細かい退治の仕方はそれぞれ見ていただくとして、共通するのは掃除することです。段ボールを減らして、水回りと生ごみ回りをキレイにしておくだけで、大体減らせます。
超余談:抵抗性獲得の仕組み
「最近の虫は抵抗性を持っていて、強力な殺虫剤じゃないと死なない、クモ専用の強い殺虫剤が必要」という謎の言説を聞いた気がするので、そもそも抵抗性とは何かという話をしていきます。
抵抗性とは進化である
まずは抵抗性の獲得とは進化です。
これを聞いて、
「ああ~ハイハイ、毒を浴び続けると修行みたいな感じで毒に強くなるってやつね」と思った人はお手本のような間違いなので、ぜひ最後まで読みましょう。
進化は個体では発生しない
大前提として、個体は進化しません(※5)。
図3.抵抗性獲得の仕組み
個体が徐々に強くなるわけではなく、元々強い個体のみが生き残ります。そして生き残った者同士で子孫を作ることを繰り返して、より遺伝的に薬剤に強い傾向になるという話です。
漫画で例えると、
進化的である:うちはサスケの写輪眼(家柄による、生まれつき)
進化的でない:ルフィのゴム人間(悪魔の実による、生まれつきでない)
みたいな感じです。
実はこの「家柄を選抜するやり方」は農業分野で昔から行われており、品種改良と呼ばれます。現在スーパーに並んでいる野菜や果物は、交配を繰り返して美味しくてたくさん取れる経済的な植物になってます。
牛・豚・鶏などの家畜や犬や猫などのペットも同様に品種改良されてます。
原理的には薬剤抵抗性も全く同じです。
つまり、薬剤抵抗性とは「本来人間が意図していない方向への品種改良」なのです。
※5 個体の性質が変わることは【成長】【変化】【変態】のいずれかの
言葉で表せる。ちなみにこの定義ならルフィはまごうことなき
【変態】した生物である。
クモは抵抗性が発達しにくい生き物である
抵抗性獲得のメカニズムで重要になるのが、個体数の多さ、世代交代の速さです(※6)。そしてそのどちらも、小さい草食動物の得意分野です。
つまり、肉食動物は草食動物と比較して、抵抗性が発達しにくいです。
肉食動物であり、産卵の機会も限られるクモ類で薬剤抵抗性を持っている系統が存在することは非常に考えにくいです。どんな殺虫剤でも、かけたら大体死ぬと思います。
実際に農業現場などにおいては、殺虫剤の使用により、いわゆる益虫より害虫が先に抵抗性を獲得してしまい、益虫が減ることによる害虫の増加も発生します(※7)。
薬が効かないと言っている人は多分命中させてないだけか、ちゃんと確認してないだけです。クモが抵抗性を獲得していることを確認できる本や論文を知っている人がいたら、教えてください。非常に読みたいのでよろしくお願いします。
※6 どちらも足りないと最初の一撃で集団(図3の枠内)が全滅して、
復帰不可能になる
※7 リサージェンスと呼ばれる
コラム:創作物とクモ
ここからはクモあるあるの話です。雑談のネタとして鉄板なので(※8)明日から活用していきましょう。
※8 BAL調べ。根拠?そんなものはない
映画
✅スパイダーマン(2002年)
物語序盤にて主人公のピーターがクモに噛まれてスパイダーマンの力を獲得するシーンがあります。その際に噛みついてくるクモ本体はどう見てもヒメグモ類(※9)なのに、クモの網から降りてくるシーンの網はどう見てもオニグモ類の円網です。
このことから、主人公にスパイダーマンに力を与えたクモは現実には存在しないキメラ的なクモであることがわかります。
また、スパイダーマンは手から糸を射出しますが、現実世界のクモは腹部に糸疣(いといぼ)と呼ばれる器官があり、そこから糸を射出しています。ヒトで言うとおへそのあたりなのですが、スパイダーマンの糸疣が何故手にあるのか?疑問は尽きません。
加えて、クモにとって糸は貴重な資源です。作中では結構な量を放っているように見えますが、幕間でプロテインを大量に飲むなどして補給しているのでしょうか?スパイダーマンには詳しくないので、マーベルフリークの方がいたら教えてください(笑)
※9 ゴケグモの仲間かと思われる
ミステリートリック
クモの網が張ってると長いこと使われていない印象がありますが、円網種は1日(正味3時間程度)で網を作ります。
つまり、オニグモなんか大量に捕獲して、屋根裏などを移動し終わった後に放てば、通路をクモの網で塞ぐことが出来ます。クモの網があることで、この通路は使われなかったと錯覚させることが出来ますね(多分)。
密室殺人事件などのトリックに使えるでしょう。クモの生態を知っていれば、実は密室じゃないパターンです。
まとめ
✅クモと和解せよ!
以上!
クモをわざわざ退治する必要などありません。家に大量にいて気になる人はそもそも論として、家の掃除をしましょう。
どうしても嫌なら適当にその辺の殺虫剤でも振りまいておけば勝手に死ぬと思います。
ただし、そのあとゴキブリやハエが爆増する可能性は大。
他の虫シリーズ
図鑑(写真注意)
代表的な種類を実写付きで紹介していきます。クモは絵合わせで同定しやすい部類なので、割と初心者向けです。
ハエトリグモ
✅アダンソンハエトリ
屋内でよく見られる種類。1cm弱のハエトリグモとしては標準的な大きさ。南方系のクモだが、北上しており現在は本州北部でも見られる。
オスは黒地に白い模様が目立つ。メスも同様の模様だが、茶色地に灰色の模様なので、オスほどは目立たない。
図.4 アダンソンハエトリ♂
Akio Tanikawa - http://spider.fun.cx/okinawa/List.htm, CC 表示-継承 2.5, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=3477951による
図.5 アダンソンハエトリ♀
Akio Tanikawa - http://spider.fun.cx/okinawa/List.htm, CC 表示-継承 2.5, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=3477950による
✅チャスジハエトリ
こちらも日本では屋内で普通にみられるクモ。日本産では最大クラスのハエトリグモで1cmを超える。ちなみに世界最大のハエトリグモでも2cm程度の大きさしかない。
メスはその名の通り、体の中央に茶色いスジ模様が入っている。オスも同様の模様があるが、チャスジというよりシロスジ。
図6.チャスジハエトリ♂
Akio Tanikawa - http://spider.fun.cx/okinawa/List.htm, CC 表示-継承 2.5, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=3477961による
図7.チャスジハエトリ♀
Akio Tanikawa - http://spider.fun.cx/okinawa/List.htm, CC 表示-継承 2.5, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=3477960による
✅ネコハエトリ
屋内にはあまりいないが、庭や公園などでよく見られる。メスは全身が猫のような模様をしており、オスは腹部が猫模様で頭胸部は黒色である。本種のオスは"ホンチ"とよばれ、昔から試合をさせて遊ばしていた。
実質ネコなので、猫が飼えなくて困っている人は、本種を飼えばすべて解決する(※11)。
図.8 ネコハエトリ♂
OpenCage - http://opencage.info/pics.e/large_8490.asp, CC 表示-継承 2.5, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=3995545による
※11 戯言である
アシダカグモ
✅アシダカグモ
日本の屋内ではおそらく最大クラスのクモ。2.5cm近くなる。ゴキブリを食べることで有名。通称"軍曹"。
名前の由来は餌を捕獲したときに足を高くして、獲物を地面から隔離することから。
たまにタランチュラと間違えられることがある(※12)が、日本にはペット以外のタランチュラは存在しない。毒があるか聞かれることもあるが、あるかないかで言えばあるけど、気にすることはないし、噛まれた人を聞いたことはない。もちろん死んだ人も聞いたことはない。
最近の遺伝子調査で外来種であることが判明したらしい(※13)
また、近年ではゴキブリ退治の目的でヤフオクなどで販売されているが、良い子も悪い子も絶対に購入して放し飼いしてはならない(※14)
図.9 アシダカグモ♀
Jnn, CC BY 2.1 jp, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=3078756による
✅コアシダカグモ
コアシダカグモと名前がついているが別に小さくはない。アシダカグモと同じくらいのサイズ感である。本州ではアシダカグモとは棲み分けがされており、本種は屋内にはおらず、もっぱら屋外で見られる。
沖縄においては屋外に本種とアシダカグモが混在する。
図10.コアシダカグモ♀
Yasunori Koide - 投稿者自身による著作物, CC 表示-継承 4.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=49378068による
✅アシダカグモとコアシダカグモの見分け方
眼の下のライン
アシダカグモ |白いライン有
コアシダカグモ|白いライン無
腹部の模様
アシダカグモ |△模様無
コアシダカグモ|△模様有
※12 タランチュラも噛まれれば痛いらしいが、毒グモというほどでもない
※13 外来種だからと言って、駆逐せねばならないということではない
※14 在来種だろうと外来種だろうと、野外に他産地の生物を放っては
ならない。ペットを飼育者の管轄内で"飼殺し"にするのは
基本中の基本である
ユウレイグモ
✅イエユウレイグモ
1cm程度で屋内性のクモではアシダカグモに次ぐ大型サイズのクモ。色合いが幽霊のように儚い感じ。高い位置に不規則な網を作るので、家の中で天井にクモの巣があれば、大体コイツと思って良い。
威嚇として網を揺さぶる行動が見られる。6~8月の産卵期には卵をくわえて保護する行動も見られる。
図11.イエユウレイグモ♀
User:Sanao - 投稿者自身による著作物, パブリック・ドメイン, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=2183806による
ヒメグモ
✅オオヒメグモ
日本で最も普通にみられるクモ。体長は8mm程度でまん丸のお腹が特徴。屋内では玄関や洗面所の角などによく見られ、屋外でもベランダやプランター、生垣の下や看板の下など低い位置に見られる。網は不規則な網をしており、接地面が粘着物質となっており、獲物がかかると切り離されて逆バンジーのようになる。
図12.オオヒメグモ♀と卵嚢(らんのう)
CC 表示-継承 3.0, https://commons.wikimedia.org/w/index.php?curid=1671271による
✅セアカゴケグモ
日本産クモ類ではないが、有名な毒グモなので記載した。
草むら・側溝・プランターなどの低い位置に見られる。体長は1cm弱。黒い体色をベースとして背中に赤いラインが見られる。
英名もそのまんまred back widow spider(背中が赤い未亡人のクモ⇒背赤後家蜘蛛)
オオヒメグモと同様の構造の網を張る。
侵入時は日本の冬の寒さを越せる生態ではないと思われていたが、ホットスポットがあったために、そこで冬をしのいで定着している模様。
図13.セアカゴケグモ♀と卵嚢(らんのう)