- 投稿日:2024/12/05
- 更新日:2025/09/29

はじめに
こんにちは、ぽっぽと申します。
皆様は健康診断や人間ドックで、心電図検査を受けたことが一度はあると思います。
若いときは正常だったのに、最近はちょくちょく異常を指摘されるようになった、そんな方はいませんか?
私は数年前に職場検診でブルガダ症候群と診断され、S-ICD(皮下植え込み型除細動器)という器械を左脇に入れる手術を受けました。
診断を受けた当時の私は、いろいろネットで調べました。疾患についての知識はある程度得られましたが、体験記などは意外となく、不安になったのを覚えています。
自分の体験を綴ることで、ブルガダ症候群と診断された方、これから治療を受ける方の参考になれば幸いです。
注:以下の記事は執筆時点の情報を基に作成しております。この記事だけを鵜呑みにせず、必ず専門家である循環器内科にご相談ください。
ブルガダ症候群とは?
概要:若年男性に起こりやすい致死的不整脈「ぽっくり病」
ブルガダ症候群とは、致死的不整脈の一つです。
日本人をはじめとするアジア人に多く、ほとんどが成人男性に発生します。
発病率は500人に1人程度と、決して少なくありません。
大多数は無症状で、職場検診で指摘されることが多いです。
ごく稀ではありますが、夜間突然に心室細動(VF)へ移行し、意識消失、心肺停止、最悪の場合は死に至ることがあります。
以前は「ぽっくり病」と言われ、長らく若年男性に起こる原因不明の突然死と言われてきました。
診断:心電図(負荷試験含む)、カテーテル検査
臨床所見、心電図所見を基に、カテーテル検査(EPS:心臓電気生理学的検査)を行うかを決定します。そのうえで下図のように不整脈リスクを判定します。
私は赤丸で示した、上から2番目の「中高リスク」に該当しました。
治療:経過観察 or 内服治療 or S-ICD植込み
症状の有無で、下図のフローチャートを参考に治療方針を決定します。
S-ICD 植込み体験記
難しい話が続きましたね。
以上を踏まえたうえで、どのように私がS-ICD植込みまでたどり着いたのか、リアルをお伝えしたいと思います。肩の力を抜いてお読みください。
⚠️注意⚠️:前提として、リベシティに入ったのは手術が終わった数年後です。保険ショップに行くなど、今考えたらあり得ない行動もしていますのでご了承ください。
職場検診で心電図異常指摘されるも、自己判断で放置
遡ること数年前の春。
就職後初めての健康診断でした。
身長体重、採血、採尿、レントゲンなどを終え、次は心電図検査。
仕事のことを考えつつ、淡々と電極を体に付けられ、息を落ち着かせいつものように粛々と検査が終わるのを待っていたのです。
しかし、検査技師さんの様子がおかしい。いつもなら「お疲れ様でしたー」と電極を外してくれるタイミングなのに、首をかしげながら僕にこう言いました。
検査技師さん👧「ブルガダ症候群の波形が出てるので、念のため上の肋骨でも心電図取りますね。」
私👨(え?? ブルガダ症候群??? 国家試験でしか聞いたことないぞ……)
私はそれなりに健康優良体の自信があり、今までも健診で心電図どころか他の検査でも引っかかったことはありませんでした。
それがなぜ今になって突然ブルガダ症候群の波形が出てきたのか、自分でもわかりませんでした。
これまで失神や心停止したことなんてないし、血縁にも突然死した人はいません。
私👨(まあ、たまたま調子悪くてそういう波形が出ただけだろう、大丈夫だいじょうぶ。)
と言い聞かせつつ、気になってかかりつけの内科の先生に聞きに行きました。
かかりつけの先生👨⚕️「健診ではごくたまに引っかかる人いるけど、大半は無症状だし、既往も家族歴もないなら心配ないんじゃない?」
かかりつけの先生👨⚕️「大丈夫だと思うけど、気になるなら循環器の先生紹介してあげるよ。」
そう言われ、少し安心しました。
循環器の先生に診てもらうほどではないかと自己判断し、その時は紹介を遠慮しました。
そして、次の日からも仕事に忙殺される日々が続き、いつのまにか心電図異常は完全に忘れてました。症状も全く無かったので笑
”ほけんの窓口”に行ったあの日までは。
保険屋で精査指示、トレッドミル負荷心電図検査
結婚したばかりの私は、万一に備えて生命保険に入ろうと思い始めていました。 (←まだ子どももいなかったのに生命保険? あたおかですね😅)
そこでほけんの窓口に赴き、🍄外貨建て保険🍄 の説明を受け契約しようとしたところ、
保険のお姉さん👧「健診の心電図検査で要精査となってますね。」
保険のお姉さん👧「このままでは契約できないので、専門の医療機関を受診してください。」
・・・・・・放置していたツケが回ってきました。
まあでも、サクッと循環器内科受診して、「異常所見なし」の診断書もらってくるだけだ。
そう楽観的に構えてたのです。
(外貨建て保険に入らなかったので、家計的には結果オーライでした笑)
数日後、中規模病院の循環器内科を受診。
再び心電図検査したところ、またしてもブルガダ症候群の波形が出ていました。
先生は、追加で心エコーとトレッドミル運動負荷試験を行うと言いました。
心エコーは心臓超音波検査のことで、心臓壁の収縮能力や弁が正常に機能しているかを見ます。
トレッドミル運動負荷検査は、ランニングマシーンやエルゴメーターなどで運動負荷をかけ、心拍数や血圧を計測し、心電図をモニタリングする検査です。
結論から言うと、どちらも異常ありませんでした。
ちなみにトレッドミル運動負荷検査はめちゃくちゃしんどかったです。
僕はエルゴメーターでしたが、2分ごとに負荷が重くなります。
その様子は例えるなら、徐々に傾斜がきつくなる坂を自転車で永遠に立ちこぎしているような感じです。
※イメージです (ベタ踏み坂で有名な島根県松江市の江島大橋 いつか行ってみたい!)
最初に先生が、心拍数170/分になったら終わりにすると言ったので、それを目標に必死にこいでましたが、10分以上立ちこぎしても、なかなかそこまで心拍数が上がりません。平常時が50/分くらいしかないので、かなりハードルが高いです。
ようやく170/分になり、
私👨「先生っ…!! 170……! 行きました!」
先生👨⚕️「お疲れさま!
…あれ?? 電極が外れてるね笑
もう一回できる?」
私👨「」
再検査する体力も気力も残ってなかったので、170手前で取れた心電図を採用することになりました。
その後診察室で
先生👨⚕️「ブルガダ症候群と確定診断はできなかった。このまま経過観察することもできるし、大学病院に紹介して、より詳しいカテーテル検査を受けるという方法もあるよ。どうする?」
私👨「診断がはっきりしないのは気持ち悪いので、カテーテル検査受けたいです!紹介お願いします!」
大学病院受診、カテーテル検査
紹介状を書いてもらい、大学病院へ。
一通り検査の説明を受け、いざカテーテル検査の日がやってきました。
1泊2日の検査入院です。
初期研修で何度も来た、血管造影室へ。まさか自分が患者として入る日がくるとは…
(まあ、こんだけおおごとになっても、結局異常なしってのがオチだろー)
くらいにしか考えてませんでした。
カテーテル検査は局所麻酔です。右鼠径部の大腿動脈という太い血管を穿刺して、カテーテルを入れていきます。局麻自体はそこまで痛くないですが、浸潤させるために先生が揉みこむんです。
これがめちゃくちゃ痛い!!
自分も患者さんに局麻していた時は、おまじないをかけながらよく揉みこんでたので、今度からしないように心に誓いました笑
話がそれましたが、カテーテルが心臓まで到達し、いろんな刺激を与えていきます。意識はあるので、先生と話しながら確認していきました。
そして ”2連期外収縮" という刺激を与えるよと言われ、最初はなんともありませんでした。
しかし、だんだん血の気が引いていき、まるで迷走神経反射のような眼前の暗黒感。そして胸部全体のものすごい痛み。例えるなら、北斗の拳のケンシロウが放つ「北斗百裂拳」のような感じです、それが体の内側からひたすら殴ってきます。
引用:北斗西斗様
大学病院の先生👨⚕️「……さん、ぽっぽさん!しっかりしてください!!」
………………
…え? なんかめちゃしんどい…痛い…
僕は刺激により心室細動(VF)を誘発し、30秒ほど心停止したのです。
先生が後から説明しに来てくれました。
1回除細動したが波形が正常化せず、2回目でやっと蘇生したとのことでした。
ただ身体がしんどすぎて、正直説明の内容はほぼ頭に入らず、後から妻に聞きました。
つまり、本物のブルガダ症候群でした。
家族会議
退院後、妻と話しました。
選択肢は二つ。
① 経過観察
② ICD植込み
私がもし独身だったなら、かなり迷って①を選んだような気がします。
しかし、当時の妻は妊娠中であり、二人を残して死にたくないという思いが強くありました。
半分死にかけで病室に戻ってきた私を見て、妻はひどく動揺したようで、このままだと私を失うかもしれないという恐怖もあったとのことでした。
なので私と妻はほぼノータイムで②を選びました。
一方、私の両親は植込み術に関して懐疑的でした。文献も調べてくれて、植込み術までするのはやりすぎなのではないかと。確かにそういう論文もありました。
しかし、確率としては低いかもしれませんが、もしVFが起こってしまったら、状況によっては助かりません。ブルガダ症候群と診断された以上、生命保険には入りづらくなりました(死亡するリスクが高いと判断されます)。そうなると家計の損失は計り知れません。
私と妻の気持ちを説明したうえで、説得しました。
最終的には県外の両親も大学病院に来て、先生の説明を受けた上で納得し、S-ICD植込みをすることにしました。
S-ICD植込み術
いよいよ植込み術です。
検査入院と違い、7泊8日というまあまあ長い入院です。創部の経過観察と、急変に対応するためとのことでした。
前日に手術に関する説明を受け、いざ本番。
今回も局麻で行います。切開するのは左脇(S-ICD本体用)、胸の中央(リード皮下トンネル用)、右鼠径部(カテーテル)の3か所でした。
まず左脇を8cmほど切開します。
ところが局麻の効きが浅く、メスで切開されたときは思わず
「いたたたた!!!!」
と叫ぶほど痛かったです。自分が医療関係者ということは明かしていたので、我慢して声を押し殺そうとしましたが無理でした笑
必ず局麻が効いてるか確認してから切開しましょう笑
そのあとは
・皮下を展開し、筋肉の下層にS-ICD本体を設置します。
・続いて左脇からL字にリードを設置するため、皮膚の下を通していきます。
・設置し終えたら、動作確認です。
途中から鎮静で眠らされたので覚えていませんが、S-ICDが正常に動作するかの確認を行ったようです。
術後は創部痛と筋肉痛との闘いでした。筋肉痛は除細動によるもので、左肩の痛みがやばかったです。ロキソニンに感謝。
徐々に痛みは改善し、元気になった私はNintendo Switchの「ゼルダの伝説 ブレスオブザワイルド」をひたすらやりまくってました笑
ハイラルの冒険をしている間に1週間が過ぎ、無事に退院しました。
退院~現在
手術から1週間ICD作動がなければ、自動車の運転もできます。なので退院した日から運転することができました。
最初は左を下にして横向きに寝ると痛みがありましたが、数年たった現在はほぼありません。もちろん異物感はありますが、慣れました。
日常生活での不自由は特に感じません。仕事も普通にしてますし、手術は普通に電気メス使ってました。ボーンソーもいけましたね。
1つ小話として、こないだヒゲ脱毛をしたいと思い、クリニックに電話したところ、
クリニックの先生👨⚕️「身体の中に金属はありますか?」
私👨「ペースメーカーみたいなものがあります。」
クリニックの先生👨⚕️「申し訳ありませんが、当院では施行いたしかねます。作動に影響を及ぼす可能性があるからです。」
このように、レーザー機器を使用する治療などは制限が出てしまいます。ICD植込みするなら、脱毛を先に終わらせてからにしましょう!
…なんてのは冗談です笑
どちらを優先すべきかは、みなさんのご判断にお任せします。
Q&A
Q. 生活の上で注意点は?
A. 磁気が発生するところには近づかないようにしましょう。高圧電流や永久磁石など。
IHクッキングヒーターや麻雀全自動卓も使用禁止とS-ICD手帳には書かれてます。
徐脈になるとVFを誘発するため、深酒はNGです。飲酒そのものは問題ありません。
スポーツは激しいものでなければOKです。
Q. 空港の保安検査場はどう通過する?
A. ICD手帳を係員に提示し、金属探知機を用いない方法で検査を受けてください。
金属探知機(設置型・携帯型)から発生する電磁波が、ICDの作動に影響を及ぼす可能性があるからです。
ちなみに私はこのことを完全に失念して、保安検査場で設置型に引っ掛かり、さらに携帯型を左脇にあてられてしまいました笑 ICDの挙動には特に異状なさそうでしたが、反面教師として、絶対にマネしないようにお願いします。
Q. 身体障碍者になる?
A. 植え込み術をした場合、身体障碍者4級の要件を満たします。
手帳を取得した方が色々とメリットが大きいと思います。例えば所得税控除や公共交通機関の割引などです。デメリットとしては、障碍者であることが恥ずかしいと思う方もいるようです。気持ちの問題だと思います。私は全く気になりません。
詳しくはこちら
障碍者.com 手帳について詳しく解説されています。
障碍者手帳で行こう! ~全国版~ 都道府県ごとの割引情報など
Q. お金はどのくらいかかる?
A. 手術・入院は高額療養費制度を使って、15〜30万円ほどです。幅があるのは収入により金額が変化するためです。
なお実際の保険点数ベースでは40万点、つまり10割負担で400万円(!!)かかってました。日本の健康保険は素晴らしい!
半年毎の通院費は、15,000円/回(3割負担)です。つまり3万円/年くらいとなります。確定申告で障害者控除(所得控除26万円)を使えばペイできます。
Q. 自動車の運転はできる?
A. 車種により異なります。
全面禁止🚫:中型車両(8トン限定を除く)、大型車両、バス・タクシー・運転代行などの旅客自動車(第2種免許)
一部制限⚠️:一般自動車 無症候者の場合 植込み後7日間運転禁止(有症候者は6ヵ月)
半年ごとに運転免許センターへ診断書を提出する必要があります。
Q. MRI検査はできる?
A. MRI対応の機器を植え込んでおり、対応施設でのMRIであれば条件付きで可能です。
必ずS-ICD手帳と、MRI対応カードを提示する必要があります。循環器内科医と臨床工学技士による設定変更をした上でMRI検査を行い、終了後は再度設定変更をする必要があります。
一度頭部MRIを施行しましたが、特にこれといった変化はありませんでした。
私は、1.5T(テスラ) MRI対応のS-ICDです。
ちなみに、テスラというのは磁束密度の単位です。数字が大きいほど、MRI画像の解像度が高くなります。大きな病院だとほとんど1.5TのMRIだと思います。
余談ですが、MRI撮影している患者さんが急変して、ICDのことをすっかり忘れてMRI室に飛び込んでしまったことがあります笑 反面教師として(2回目)
まとめ
まずは循環器内科受診を
職場検診でブルガダ症候群と言われたら、放置せずに中規模病院の循環器内科を受診しましょう。
なぜなら、少ない確率とはいえ、致死的な不整脈に移行する可能性があるからです。
実際に失神・心肺停止の既往があれば、問答無用で精密検査となります。その中でブルガダ症候群と診断されれば、間違いなく再発予防にS-ICDを植え込むでしょう。
しかし、ブルガダ症候群患者の大半は無症状です。健康な青年男性は学業や仕事で忙しく、検診で指摘されたとしても、私のように「正常性バイアス」に陥る可能性が高いです。
注 正常性バイアス:認知バイアスの一種。自分にとって都合の悪い情報を無視したり過小評価したりするという認知の特性。「自分は大丈夫だろう」などと言い聞かせ、自然災害などで逃げ遅れる原因になったりする。
「自分は大丈夫」 そう思っていた時期が私にもありました。
もちろん、指摘されても発作が起こらずに健康に過ごせる人が多いのは事実です。しかし、そうではなかった時の代償があまりにも大きいように思います。ましてや守るべき家族がいらっしゃる方は尚更です。
診断された全員がS-ICD植込みになるわけではありませんが、私もそうなるとは思っていなかったところから今があります。ぜひ、中規模病院の循環器内科を受診してみてください。
最後までお読みいただきありがとうございました。
皆様が賢明な選択をされ、幸せな人生を送っていただきたいと切に願っております。
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